透明人間の輪郭

紡いだ言葉が私の輪郭になる。

「竜とそばかすの姫」を観た

先日、「竜とそばかすの姫」観てきた。
高校生の頃、「時をかける少女」を見て以来、細田作品は必ず映画館で見るようにしている。
「竜とそばかすの姫」を観た後、少し寂しい気持ちになりました。
賛否が分かれていることは知っていました。
鈴の気持ちだけに沿って物語を見ると、母を失った悲しみから周りの助けを得て成長していくストーリーとして、音楽や演出の素晴らしさもあっていいなーと思えます。
しかし、竜の気持ちに沿って行くと、良く分からない。私の理解力不足かもしれないけれども。
竜が最終的に救われたのか疑問で、映画自体が良かったと思えた人はおそらく救われたと考えているのでしょうから、竜のような本当に孤独な人の気持ちを良かったと思った人は理解できないのかと少し寂しくなりました。

また、竜がベルを引き立てるだけの装置であり薄っぺらく感じました。

ここまでネタバレにならないように少し誤魔化してきましたが、以下ネタバレを含みますので閲覧注意です。
また、映画を観ていることを前提に話すので、細かいことの説明は省きます。

一度しか見ていないので、理解の及んでいないところに関しては御容赦願います。

 

僕が腑に落ちなかったところは、3点です。
①竜が暴れていた理由
②竜が鈴を信じるか?
③竜は救われたのか

 

竜(=恵)、ベル(=鈴)として書きます。
この物語は母を失った鈴と恵の対比が軸だと思います。
友人、父、周りの大人に恵まれて田舎に住む鈴と金銭的には恵まれていて東京に暮らす恵の比較で明らかに対になっています。

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1.竜が暴れていた理由
まず、僕は竜が暴れていた理由が理解できませんでした。
この点は、ベルと竜の出会いのきっかけでもあるため、物語の重要な点ですが、はっきりしません。
劇中では弟を喜ばせるために、活躍してる姿を見せたかったのではという趣旨の推測があったと思います。
しかし、恵は中学生で分別のあるキャラクターとして描かれています。
また、暴力を現実に振るわれています。
その恵が理由もなく暴力をふるうことを良しとするのは納得できなく、幼く感じます。
竜の正体を推測するときに「心の強さがUでは力となった」のでは、とあったのに対して、その力を行使する理由が力を見せつけたかったからというのも、設定のわりにちぐはぐな印象を受けます。
子供に支持されている描写もありましたが、その理由が分かりません。

父にDVを受けているという背景から、闘技場という暴力を是とする場所に集まる人を軽蔑して攻撃を加えていた、DV等の暴力行為をしているが公になっていない人のアカウントを特定して攻撃していた等、竜が他人のアカウントのデータを破壊するほどの暴力を是とする理由が見えてこないと、本当にただ暴れたかっただけの不良みたいになってしまい、物語が薄く感じます。

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2.竜は鈴を信じるか?

恵について、父との関係は明確に描かれているため意識しやすいですが、母との関係は明確には描かれていません。
竜の城のなかで顔が見えないように破壊された母らしき肖像が飾ってあります。
推測になりますが、竜は母を恨んでいるのではないでしょうか。もしくは考えないようにしている。諦めている。頼りにしないようにしている。
推測ですが、父がDVをふるうので、恵の母は離婚して家から出て行ったのではないでしょうか。
子供たちは父のところに残された、つまり、母は恵とトモを守れなかった。恵の目線から見ると、見捨てられた。裏切りと取れます。
それ故、恵が自らが母の代わりになって、トモを守らなければという気持ちが強かったのではないかと推測します。
恵は劇中で「助けたい」と言って助けてくれなかった大人たちはもう信用できないと口にします。
そこには母も含まれいるはずです。
両親にも裏切られた多感な中学生が簡単に、次の日には鈴が来てくれると思って外に探しに行くでしょうか。あっさり自分よりも大人の女性を信じれるでしょうか。
城にベルを案内したように、トモが橋渡しになって二人をつないだ描写とも取れますが、少し説得力がない気がします。
音楽の力によって、心を開いたとするのも少し都合がよすぎる気がします。

 

竜が結局ベルを信用できなくて、攻撃してしまいベルのデータが壊れてしまい恵がベルをアンヴェールしてしまい、それでもベルが堂々と皆の前でありのままふるまう等の展開があると多少説得力が出たのかと思います。

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3.竜は救われたのか?

結局のところ、竜は救われたのでしょうか。
現実的ではないですが、あのまま最後のシーンで恵を高知に連れて帰って保護した等の展開があれば、皆の下で恵も鈴と同じように守られて、救われるというような話になったのかもしれませんが、結局恵とトモはあの東京で父と暮らさざるを得ないまま終わっています。
母への感情も変わらないでしょう。
印象としては、ネットの有名人が急に訪ねてきてくれて、一度父との間に立って守ってくれた。何かテレビの有名人が訪ねてきて問題を解決する企画のような話です。
映画を観ている人は鈴の背後にあるものを知っています。母を失ったこと。鈴が今その時の母と同じようなことをしていること。だから、心打たれます。
しかし、恵目線で見れば、ネット上でアンヴェールという自殺行為をしてまで助けたいと来てくれたというのは、衝撃的な出来事だったにしても、あくまで鈴は恵まれているネットの有名人なのではないでしょうか。
目の前の問題からも、人を信じれなくなったという問題からもあまり救われていないん症を受けました。

 

確かに、これらは僕の想像の域を出ません。あの後、大人が動いてくれて助かったのかもしれません。
恵もそんなに傷ついていなくて、単にベルが気にかけてくれてうれしかったのかもしれません。
でも、DVを受けていて抱えなくていい問題を抱えた少年を救うという問題をそんなに軽く扱って良かったのかという気はします。

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鈴が立ち直る話、成長する話としては、音楽も相まってすごく良くて、鈴の周りにいい人がいっぱいいるというのが良く分かって良かったと思います。
あと、理想的すぎる気もしますが、男子がかっこいいなと思いました。