透明人間の輪郭

紡いだ言葉が私の輪郭になる。

正欲を観た

正欲を観てきた。

”せいよく”の音に引っ掛けて興味を引くタイトルとしておきながら、人間として正しくありたいとする欲を描くというような作品であると予想して観に行きました。

多少のネタばれもあるので閲覧には気を付けてください。

 

ネタバレになりますが、”せいよく”は性欲でもあり、欲の正しさとは?という問いかけという意味合いもありました。

 

この作品は新垣結衣演じる桐生さんを理解していく映画だと思います。
そして、道の中心を歩くことのできない人の純愛映画だと思いました。

冒頭から佐々木佳道と通じ合うまでの話では、桐生さんについて多くの人が理解できないと思います。
最初の桐生さんはただ単に周りと打ち解けることが出来なくて、世間に違和感があって、学生時代に出会った佐々木佳道との思い出が何か心に残っている30才前後の地方在住の女性といった印象です。
佐々木佳道が地元の福山に戻ってきて以降、行動のいくつかに強烈な違和感を視聴者に与えます。

 

完全にネタバレになりますが、桐生さんにとって佐々木佳道は人生の中で出会った人間で唯一、”水”に性的な興奮などを感じることを共有できる仲間なのでした。
これがわかると、佐々木佳道に強力なこだわりを持っていた理由が視聴者にも明らかになり、同時に冒頭のベッドが水に浸って行く表現が単なる比喩表現ではなかったことが分かります。佐々木佳道の給水機からあふれる水を静観してぼーっとしている様子も単に世間になじめず、鬱気味であったための行動ではなかったことが分かります。
この様にいろいろなパズルのピースが一気にはまってきて、その時、少し気持ちが分かるかもって思います。
ここが一番の見どころなきがします。

 

もう一人の主人公として、ダンスサークルに入っている大学生の諸橋大也が描かれますが、こちらの違和感も物語が進むと明らかになります。
男性恐怖症の神戸さんとのやり取りの意味が分かった時、マイノリティーというか性的恋愛弱者とでも言えそうな人たちの報われなさみたいなものが詰まっている気がして後から切なくなりました。

 

主演として稲垣吾郎演じる検事さんは、晩御飯にレトルトのカレーとかこどものためのオムライスとかを出されてたり、こどものおもちゃで部屋が丸っと散らかったままでも全然受け入れるのに、正しさのようなものから外れていることには否定的で。
彼を通してみるいわゆる正しさから外れた人である彼ら彼女らという構図も見どころです。
同時に正しさのグラデーションみたいなものを感じます。ここは正しさを譲れないけど、ここは少々ルーズでも許容できるし、場面によってはそれも揺らいでしまうような。

 

ストレートの人から見ると変わったこともあるねといった印象になってしまうのかもしれませんが、神戸さん見る世界や稲垣吾郎さんの見る世界はもしかしたら、視聴者の見る世界を変えてしまうかもしれません。
ストレートでない人から見ると観たことのないくらい純愛映画だと感じるかもしれません。

 

朝井リョウ原作作品を初めて見ましたが、社会が抱える命題みたいなものを他にも感じる部分があったりと、上手いなあと感じました。

あと、余談も余談ですが、昔アイドル女優みたいな扱い受けてSchool of Lockでコーナー持ってたり、曲だしたりしてた新垣結衣も大人なったなーと思いました。