現代社会において隠すべきものではないのかもしれない。
素直に気持ちを表現することのほうが素晴らしく、祝福されるべきことなのかもしれない。
しかし、誰にも打ち明けることのできない内に秘めた恋心には、言い知れぬ奥ゆかしさがあり、それを美しいと捉える感性が日本にも昔から存在していたようである。
万葉集にも
”夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ”
と夏の茂みにひっそりと咲く姫百合と自分の忍ばなくてはならぬ恋心を重ね合わせた大伴坂上郎女の歌があります。
現代の歌においても忍ぶ恋の歌詞があります。
自分の記憶に残っている歌詞を3つ紹介します。
平安時代などの忍ぶ恋は身分などによって表に出せない気持ち等を表現したものですが、現代においては拡大解釈して好きだと上手く言えない感情を歌った曲も選んでみました。
切なさや奥ゆかしさなどを表現したという点では似たような良さがあると思います。
一つ目は髭男dismの「Pretender」です。
2019年の紅白歌合戦に出場されていたので記憶に新しいです。
歌詞はこちら→Official髭男dism Pretender 歌詞 - 歌ネット
この歌の歌詞については、純粋に高嶺の花のような存在との関係を歌った歌だと捉える人がいる一方で、愛人やセフレとの関係を歌った、同性愛者のかなわぬ恋を歌ったと捉える人がいるというところが面白いと思います。
ぼくは単純な高根の花について歌った歌ではないと感じています。
もっと違う設定で もっと違う関係で
出会える世界線 選べたらよかった
いたって純な心で 叶った恋を抱きしめて
「好きだ」とか無責任に言えたらいいな
このあたりに単純に表に出してはいけない恋心が表現されていて、
単純な高嶺の花に対して歌ったものではないと感じられます。
単純な憧れを大げさに歌ったback numberの「高嶺の花子さん」というヒット曲がありますが、こちらではそこまで思い詰めていない白旗宣言の様なもんです。
そうではなく本気で自分の人生にかかわると思っていて、それでも運命の人にはできなくて、ともあればその気持ちは秘めなくてはならないという思いが感じ取れます。
僕は最初聴いたとき、愛人について歌った曲だと思っていたのですが、諦めなくてはいけないような、それでいて大ぴらにしていないような奥ゆかしさがあると感じました。ボーカルも相まってよいなあと思いました。
二つ目は平井堅の「君の好きなとこ」です。
若々しい平井堅を見ることができます。
今の平井堅を知っていると少しかわいく見えてきますね。
歌詞はこちら→平井堅 君の好きなとこ 歌詞 - 歌ネット
歌詞なのですが、思いが募るほどに思いを伝えることはできない。
と言いながら、リズミカルに好きなところをいくつも羅列していきます。
歌の中ではどんだけ好きやねんといわんばかりに表現して表現して、ためてためて、最後に「一つも言葉にできなくて」と歌うところがなんとも奥ゆかしいですよね。
ここまでいろんなところが好きなのに言葉にできない初々しさなのか、関係が深すぎて今更こっ恥ずかしいのか、好きなところを羅列しているところは少し気持ち悪いくらいなのに、言葉にできないことで、ボーカルと合わさってさわやかすら感じます。
三つ目は風味堂の「愛してる」です。
前二つに比べると知名度がないかもしれませんが、ドラマ「PS(ポリスステーション)羅生門」の主題歌でした。
歌詞はこちら→風味堂 愛してる 歌詞 - 歌ネット
冒頭から失恋の曲ですが、「愛してる」連発です。
連発して、ためてためて、「もう言えなくて~」です。
失恋の切なさをかみしめて、それでも愛して、こんなに歌ってるのに言葉にできなくての奥ゆかしさです。
ともすれば、「君の好きなとこ」もそうですが、Jpopにおいては忍ぶ恋心を盛り上げるのは、この溜めなのかもしれません。
キラキラ光る恋の歌詞も歌の魅力ですが、伝えたくてももう伝えられない気持ちや、上手く伝えることのできない気持ちを歌った歌詞も奥ゆかしくいいものです。
失恋や切ない気持ちのほうが時に人の心を動かすことがあること思います。